心斎橋アセンス BOOK STORE






大阪にある本屋、心斎橋アセンスで働く書店員。
本と日々のことを、ぽつぽつと書いてゆきます。
 


 2018.07.20 あなたへの手紙


【心斎橋アセンス】 磯上竜也 

 

拝啓

 

陽炎立ち昇る暑い日々が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。

今日はあなたに是非お薦めしたい本があって、久々に筆をとりました。

 

澤西祐典という小説家をご存知でしょうか?2011年に集英社が主催する新人文学賞のすばる文学賞を受賞しデビューした作家なのですが、そのデビュー作がまた不思議で、ベルギーの片田舎で農夫の妻がフラミンゴに変身してしまう所から始まるのです。こういうお話を変身譚というらしいですね。

語りかたというのでしょうか…物語の運び方が本当に上手で、読むとどんどんと引き込まれていき、あっという間に読み終えてしまいました。

 

ああ、つい筆が走ってしまいましたが、お薦めしたいのはその「フラミンゴの村」ではなく、この方の最新刊なのです。『文字の消息』という作品集で、3つの小説が収められています。すこし突飛にも思える奇想をひとつの工芸品のように言葉で丁寧に語り磨き上げていくその手業は惚れ惚れするものがあります。

 

表題作である「文字の消息」は、街に突然文字が降り始めたことを伝える一通の手紙から始まります。(実は、恥ずかしながらそれをなぞって手紙をしたためてみた次第です。)

文字が降るだなんて少し素敵、などと思って読んでいますと、そうも言ってられない状況が次々と明かされてゆくのです。その出来事の一つ一つが、不条理の連続で悲喜劇のようですし、現実を透かし見れば皮肉としても感じられます。そんな深く読み解きたくなるような謎が提示され続け、読む手は止められずに頁をめくり続けることになります。他の2つの作品もそれぞれきちんと整えられた言葉で語られていく幻想奇想が面白く、こんなに本に没入できたのは久々で、是非この感覚を本を読むことが好きだったあなたにも味わってほしいと、そう思ったのです。

 

もしかしたら、すでにご存じかも知れないのに長々とお付き合いさせてしまってごめんなさい。けれど、これがまた新しい本との出会いのきっかけになれば幸いです。

是非クーラーの効いた部屋でこの物語に浸る時間を過ごしつつ、酷暑に負けぬようくれぐれもご自愛くださいませ。

 

                                                                       敬具 

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  このコラムは、2018年7月20日に本屋紹介サイト「読読」内のコラム・コンテンツに掲載されたコラムです。
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